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2011.11.06 創作4
氷川神社殺人事件の被害者、大伴雄三は国土通産省のエリ~ト官僚であった。東大法学部から国土通産省へ入省して、順調に出世街道を歩み、省内の評判も悪くない。秀才にありがちな冷徹な合理主義より総合的な判断が出来る人間であった。根回し和尚と言われるように関係部署への根回しや業者との交流とソツがない。業者との関わりと言うと不正の臭いが懸念されるが、彼に関しては潔白とは言わないが、そんな雰囲気を感じさせなかった。
大伴家は奈良県出身で由緒ある氏族の出自である。代々地元の富豪の家庭は有能な人材を地元ばかりではなく、中央の政界や財界にも人材を送り込んでいる。
雄三の父親はその大伴家の次男坊でこの家系には珍しく日本文学の学者であった。雄三はその三男で子供の頃より温和で物怖じしない子であった。地元の人々は皆、彼も父親を見習って大學教授を目指していると思っていた。しかし、彼が選んだ道は国土通産省の役人であった。その理由は彼が黙して語らなかったので、知るよしもないが、何か訳があったことは事実であろう。今となっては闇の中である。
ゆっくりと佐伯警部は下高井戸署の二階・第二会議室へ向かった。氷川神社殺人事件特別捜査本部gs設けられている。本部長は警視庁捜査第一課が長鳥居孝則を任命し、捜査係長には佐伯龍造が仰せつかった。この事件の実質的な指揮者である。
佐伯警部は鳥居課長の前の席に座った。その横は佐伯の懐刀の土居彰浩がしきりにパソコンに向かって入力している。
「なんかあったかい」
声をかけると、土居は顔を上げた。
「お手あげですよ。聞き込みも、聴取も手がかりが一つもない。通り魔ですかね。そうとしたら、厄介ですよ」
「そうか。煙が出ないか」
鳥居も20年の経験を経たベテラン刑事である。今度の事件がいかに遺留品が少なく、事件の痕跡が希薄ののは例を見ない。
「手がないですよ」
と渋顔をつくる。
佐伯警部は暫らく鳥居刑事を見つめてから
「正攻法で行くしかないな」
聞き込みと事情聴取を念入りに行うことしかないのだ。そして、どんな小さな現象も見逃すことなく、気を配ることが事件の展開を拓くのだ。それが経験による教訓なのだ。
佐伯警部は暫らくは両手で顔を覆い、無言でいたが、ふと思いついたように
「省内の聞き込みは進んでいるかい」
と尋ねる。
「あの大伴と言う男は内部の評判は至極、良好です。ただ」
「ただ、なんだい」
「いいえ、官僚なんてものは意地汚い人種で心の中では悪態をついていても、表には一欠片(ひとかけら)も心情を出さない特殊人間なのですよ」
「・・・・・・」
「いやね。官庁の聞き込みは初めてではないのですよ。公式に聴取すると、本音はおろか、事実さえ出てこない。そこは蛇のみちはへびですよ。私的に、しかも個別に話を聞いて見たのですが、酒が入るといつの間にか一人で消えるそうです。彼も悪害はないので追求はしないそうですが、一人で消えると言うのは、一寸引っかかりますね」
「どこへ行くのか、解らないだろうな」
「そうなんです。大伴がやり手で敵が多いと追求もされるでしょうが、人を踏みつけて行く人間ではないので、まあ、いいかと言ったとこです」
「その消えて行く先は探れないだろうか」
「難しいとは思いますが、聞き込みをして見ます」
と、鳥居は席を立った。そして、一人で署を出てゆく。原則として聞き込みは二人一組であるが、鳥居が単独行動をとるのは佐伯警部の意向を汲んだからに過ぎない。
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